DXとは?企業がDXを推進すべき理由や事例、データ活用との関係性
DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進が叫ばれる昨今、すでに取り組みをはじめている企業も多いでしょう。経済産業省が示すガイドラインでも、企業へのスピーディーなDX推進が求められています。しかし、その定義やデータ活用との関係性などを正確に理解できている方は少ないのではないでしょうか。
本記事では、DXの定義とデータ活用との関係性、DXの具体例や注意点について説明します。
1. DXとは?推進の背景とデータ活用との関係性
経済産業省が公表するDX推進ガイドラインでは、昨今のビジネスシーンに対して以下のような言及がなされています。
゛あらゆる産業において、新たなデジタル技術を利用してこれまでにないビジネスモデルを展開する新規参入者が登場し、ゲームチェンジが起きつつある。こうした中で、各企業は、競争力維持・強化のために、デジタルトランスフォーメーション(DX:Digital Transformation)をスピーディーに進めていくことが求められている。"
引用:経済産業省「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX 推進ガイドライン)Ver. 1.0」
内容を分解すると、以下の3つのポイントを抽出できます。
- 新たなデジタル技術によりビジネスモデルの創出が起こっている
- 各企業も競争力維持のためビジネスモデルの変革・強化が必要
- ビジネス強化のためDXをスピーディーに進めることが求められている
経済産業省の資料において、DXは「データとデジタル技術の活用によっておこなわれるもの」だと記述されているため、DX推進にはデータとデータを扱うためのデジタル技術が不可欠だといえます。
ただし、上記の情報だけでは、DXが具体的にどのようなものかイメージできません。DXとは何を指すのでしょうか。
2. デジタイゼーション・デジタライゼーション・DXの違い
DXについて語られるとき、同時に登場するのが「デジタイゼーション」や「デジタライゼーション」といった言葉です。いずれも「デジタル化」の意味を持つ用語ですが、ビジネスにおいては以下のような意味合いを持ちます。
- デジタイゼーション:ビジネスの局所的なデジタル化
- デジタライゼーション:ビジネスモデル全体のデジタル化
- DX:デジタル技術による新たなビジネスモデルの創出
まずデジタイゼーションは、今までアナログでおこなってきた業務のデジタル化だと認識してよいでしょう。紙で保管していた書類を電子化しペーパーレス化を進めることはデジタイゼーションといえます。
次にデジタライゼーションは、局所的なデジタル化にとどまらないビジネスモデル全体のデジタル化です。業務フローの一部ではなく、一連の業務をすべてデジタル化することです。
そしてDXは、既存のビジネスをデジタル化するだけでなく、データ活用を通じて顧客へ新たな価値を提供することです。そのため、DXはデジタイゼーションやデジタライゼーションの「次の段階」として語られることも多く、まずは既存のビジネスをデジタル化するよう提言される場面もあります。
3. 企業がDXに取り組むべき理由
企業にとってDXが必要であると理解はしていても、取り組まなければならない理由を具体的に説明できるという方はあまり多くありません。 ここからは、企業がDXに取り組むべき理由について3つの側面から解説します。
ビジネスの多様化
デジタル技術の発展にともない、ビジネスモデルの多様化が急速に進んでいます。例えばレコードやCDで提供されていた音楽は、今では定額制(サブスクリプション)の配信サービスでの販売が当たり前となりました。
書籍も紙から電子への移行が進んでおり、電子市場の売り上げが急激に伸びる一方、紙市場は苦戦を強いられています。
このような時代の移り変わりに取り残されず対応していくために、デジタル技術の活用やDXの推進が必要です。
老朽化したシステムからの脱却
昨今、システムのブラックボックス化や老朽化により、保守や運用にコストのかかるITシステム(レガシーシステム)からの脱却が求められる機会が増えています。老朽化したシステムからの脱却も、DXの推進で対処できる大きなテーマです。
2018年に経済産業省が公開した「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX 推進ガイドライン)Ver. 1.0」では、「レガシーシステムから脱却できない企業は2025年以降、最大12兆円/年の経済損失を被る可能性があると警鐘を鳴らしています。これがいわゆる「2025年の崖」問題です。
レガシーシステムからの脱却は、貴重なIT人材を新たなビジネスモデルの創出など発展性のある業務に従事させることにつながります。単にコストや経済損失を抑えるのみならず、自社の将来的なビジネス成功のために意識すべき点です。
消費者ニーズへの対応
ビジネスモデルだけでなく「消費者のニーズ」においても多様化が進んでいます。
誰もが当たり前のようにスマートフォンを利用する中、インターネット上での購買行動が増加するのに加え、消費者のマインドも「商品の所有(モノ消費)」から「体験の獲得(コト消費)」の重視へと変化しているといわれています。
最近では、新たなニーズとして「トキ消費」と呼ばれる「その時・その場でしか味わえない盛り上がりを楽しむ」参加型の購買行動も登場しています。
参考:博報堂「モノ、コトに続く潮流、「トキ消費」はどうなっていくのか/夏山明美(連載:アフター・コロナの新文脈 博報堂の視点 Vol.13
このように、絶えず変化する消費者のニーズを素早く見極め、ニーズに即した行動を取るためにも、DXを推進する必要があります。
4. DXの推進事例
デジタイゼーションやデジタライゼーションに比べて、DXは抽象的な概念です。
今一度イメージを確認するため、ここでは国内企業のDX推進事例をご紹介します。
株式会社ZOZO
ZOZO(旧:スタートトゥデイ)は、ファッション通販サイト「ZOZOTOWN」や、ファッションコーディネートアプリ「WEAR」などのサービスを展開する企業です。
ZOZOは、衣服に付いたケアラベル(取り扱い表示記号)を自動生成する仕組みを作り、ケアラベルのレイアウトを作成するデザイナーの負担を軽減させました。QRコードとスマートフォンアプリを活用して、製造ラインの進捗状況を可視化するなど、アパレル業界が抱えていたビジネス上の課題をデジタル技術の活用によって次々に解決しています。
また、自ら体形を計測できる「ZOZOSUIT」や足の形状を3Dで計測する「ZOZOMAT」などのサービスを開発し、顧客が自宅から出ることなく理想的なサイズの衣服を購入できるビジネスモデルを構築しました。
これら一連の施策により、ZOZOはビジネスの局所的・全体的なデジタル化にとどまらず、デジタル技術による新たなビジネスモデルの創出を実現しています。新たなサービスや顧客体験を生み出したこのケースは、日本国内におけるDXの好例の一つといえます。
Shake Shack
Shake Shackは2015年に東京・北青山へ国内1号店をオープンしたアメリカ発のハンバーガーレストランです。「現代のバーガースタンド」を掲げており、デジタル技術の導入も積極的におこなっています。
Shake ShackのDX推進事例として話題を呼んだのは、自立型の情報端末(キヨスク端末)と、事前注文アプリを駆使した完全キャッシュレス店舗の運営です。2017年にニューヨーク市イーストヴィレッジにて初登場したこのシステムでは、ユーザはアプリもしくは店内端末からセルフで注文・決済し、有人レジで支払うことなく商品を受け取れます。
これにより、人件費の削減や注文待ち時間の短縮はもちろん、アプリ・端末内のレコメンド機能の活用による売り上げや、サービスクオリティの維持にも成功しています。IT技術を上手に導入し、店舗の近代化に成功した事例です。
株式会社トライグループ
「家庭教師のトライ」で知られる株式会社トライグループも、DX推進により新たなビジネスモデルを構築しています。
同社は2015年7月、中高生向けの映像学習サービス「Try IT」の提供を開始。6,000本以上の講義映像をオンライン配信するサービスで、利用は永久無料であること、授業は1本15分で隙間時間にスマートフォンで閲覧できることから、多くの学生の支持を集めました。
また同サービスに関連して、生徒がオンライン上で質問し添削指導を受けられるシステムも有料で導入しています。従来は普及していなかった「オンライン学習サービス」の実現に成功した事例です。
日本航空株式会社
国内屈指の大手航空会社「日本航空株式会社(JAL)」は、DXを通じてレガシーシステムからの脱却に成功しています。
JALは50年ぶりに旅客基幹システムの一新をおこなう計画「SAKURAプロジェクト」を立案し、クラウドシステム部分については外部(Amadeus社)と連携するなどして、2018年に新システムを導入しました。機能開発に7年もの時間が必要とされた大型プロジェクトです。
2018年4月からはさらなるDX推進に移行すべく「JAL Innovation Lab」を設立し、xR・IoT技術を用いたバーチャル旅行を研究しています。その取り組みが認められ、2021年には「DX銘柄2021」にも選ばれています。レガシーシステムからの脱却が、企業にとって一つの転機となった好例です。
東京地下鉄株式会社
東京地下鉄株式会社は「デジタル技術を用いた観光需要の創出」と「鉄道業務におけるデータ活用」の2本柱でDXを進める企業です。
観光面では、駅から始まるスタンプラリーにスマートフォンアプリを導入。アプリから観光スポットの情報を画像付きで確認できるうえ、その場所を訪れると端末の位置情報を活用してデジタルスタンプが付与されるという、旅行者がワクワクできる仕組みを実現しています。
鉄道業務においても、トンネルの検査をはじめとするメンテナンスや補修の情報をiPadを用いてデータベースに入力。どの区間の検査や補修を優先して実施すべきか、直感や総当たりではなくデータ分析から求められるシステムを構築しています。
5. データの取り扱いに求められる3つの意識
DXを推進することで、多くのデータを有効に活用できます。しかしデータの取り扱いを誤ると思うように成果が出なかったり、最悪の場合、顧客の信頼を失うことにつながります。
データを取り扱う際には、以下の3点を意識する必要があります。
- データ管理
- データ活用
- データ保護
データ管理は、収集したデータを会社の資産として活用できるよう整理し、滞りなくデータの使用・追加・削除・更新をおこなえるよう規則を作ることを指します。単にストレージへデータを保存するだけではなく、データを活用するための土壌を整えることが重要です。
またDXでは、管理しているデータを有効活用し、データが持っている価値を引き出す意識が必要となります。収集したデータをグラフ化してレポートに起こしただけではデータを活用できているとはいえません。グラフ化したデータから「AよりBの商品配置の方が購入者は多い」といった傾向を読み取り、ビジネス的によりよい戦略を選ぶフェーズまで進めてこそ、初めてデータ活用ができたといえるのです。
さらに、DX推進にともない活用するデータのなかには個人に関するデータが含まれる場合も少なくないため、法律の遵守や顧客の信頼獲得といった観点から、データ保護に対する意識も重要となります。
これらのデータは、個人から取得した同意の範囲を超えて第三者に公開や提供すればプライバシーの侵害に該当する可能性があります。法律違反による罰則や訴訟につながるリスクがあるため、収集したデータは個人情報保護法に則って取り扱わなければなりません。
>>【改正前後の条文比較】2022年4月施行!改正個人情報保護法(2020年6月可決・成立)が企業に与える影響は?
6. まとめ
政府によるDX推進の呼びかけもあり、徐々にその必要性が認知されてきました。今後はデジタイゼーションやデジタライゼーションに着手しつつDXを進める企業が増えるものと予想されます。
また、DXを推進する際にはデータの取り扱いにおける3つの意識が重要となり、いずれかの意識が欠けるとデータ活用は順当に進みません。まずは組織内でDXやデータ活用に対する認識を一致させ、一丸となって取り組みを始めましょう。それがDX実現の大きなカギとなります。
公開日:2021年6月30日
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