電気通信事業法改正で電気通信事業者に求められる対応とは?改正法施行により注意すべきポイントについて解説!
2022(令和4)年6月13日、電気通信事業法の一部を改正する法律が可決し、同月17日に法律第70号として公布されました。本改正法は、既に2023(令和5)年6月16日に施行されています。
WebやITに精通した企業でない限り「電気通信事業法」自体に聞き馴染みがなく、多くの民間企業が自社に関係のない法令だと感じるかもしれません。しかし、電気通信事業法で定められる「電気通信事業者」の該当範囲は思いのほか広く、潜在的に多くの事業者において問題になる可能性を秘めています。
本記事では、「電気通信事業法」とはどのような法律なのか、改正背景と改正ポイントについて解説します。なお、以下では電気通信事業法を引用する場合、「法」との略称を使用します(ただし、本改正後の条文を特に参照する必要がある場合には、「改正法」といいます)。
1. 改正電気通信事業法とは
2022(令和4)年6月に電気通信事業法の一部を改正する法律法が可決・成立しましたが、もとは1985(昭和60)年の公布が始まりです。
発案当初は、電気通信事業の公共性に照らし、「電気通信役務の円滑な提供の確保」「利用者の利益の保護」など電気通信の健全な発達と電気通信サービスを利用する国民の利便確保を目的として発令されました。
改正法では、基本方針は変わらず、加えてネット社会のグローバル化に伴い、各事業者の公正な競争環境の整備を強化する目的のため、新たな項目が追加されました。なお改正法は、既に2023(令和5)年6月17日に施行されています。
1-1. 電気通信事業法の改正内容
改正法は、ネットワークが普及した現代の「デジタル社会」の実現のため、通信サービス・ネットワークが安心・安全で信頼され、継続的・安定的かつ確実に提供できる場を確立するために公布されました。
直近で始まった問題ではありませんが、通信サービス・ネットワークを管理運営する電気通信事業者(法2条5号)において、利用者の個人情報の漏えい事案が発生し、海外のサーバーなどを通じ、これらのデータにアクセス可能な状態となってしまうなど、通信サービスを利用する上で起こるリスクが徐々に顕在化しています。
また情報漏えいだけでなく、電気通信事業者に対するサイバー攻撃により、通信サービスの提供の停止に至る事案や、通信設備に関するデータが外部に漏えいした恐れのある事案など、サイバー攻撃による被害も深刻化しています。
1-2. 改正の主軸となる3本の柱
今回改正の主軸となったのは以下の3点です。
- 情報通信インフラの提供確保
- 安心・安全で信頼できる通信サービス・ネットワークの確保
- 電気通信市場を巡る動向に応じた公正な競争環境の整備
参考:総務省「利用者に関する情報の外部送信の際の措置について」
「1. 情報通信インフラの提供確保」は、ブロードバンドサービスの契約数が年々伸び、整備に加え、「維持」の重要性も高まっていることから、一定のブロードバンドサービスを「基礎的電気通信役務(ユニバーサルサービス)」に位置付け、ブロードバンドサービスの安定した収益と提供を確保するための項目です。
次に、「2. 安心・安全で信頼できる通信サービス・ネットワークの確保」では、情報通信サービスの多様化やグローバル化に伴い、中事業者が保有するデータの適正な取り扱いが不可欠とし、大規模な事業者が取得する利用者情報について適正な取扱いを義務付け、事業者が利用者に関する情報を第三者に送信する場合、利用者に確認の機会を付与する義務付けを行いました。
最後に「3. 電気通信市場を巡る動向に応じた公正な競争環境の整備」は、携帯大手3社・NTT東・西の指定設備は広範囲の事業者に提供される一方、利用料金が高額であると指摘されていたため、MVNOなどとの協議の適正化を図るため、卸役務の提供義務及び、料金算定方法などの提示義務を課しました。
1-3. 電気通信事業ガバナンス検討会
改正法の検討会のひとつが「電気通信事業ガバナンス検討会」です。 検討会では、数回にわたって現状と今後の課題について議論されました。
検討会は2021(令和3)年5月12日に第1回会合を開催し、2022(令和4)年9月13日までに19回の会合を開催しています。
改正の目的と主な検討事項については、先の「3本の柱」の内容のとおりです。
1-4. 電気通信事業者の義務
「電気通信事業を営む者(法2条)」のうち、電気通信回線設備を設置する、または他人の通信を媒介する事業者や個人は、登録(法9条)、1届出(法16条)で定められる登録・届出が必要な「電気通信事業者(法2条5号)」に該当します。
電気通信事業者に該当する事業者は、事故が発生したときはすみやかに報告するといった義務が課されており、義務に違反した場合は必要に応じて罰則が課せられます。
- 検閲の禁止(法3条)・通信の秘密の保護(法4条)
- 利用の公平(法6条)
- 登録・届出
- 提供条件の説明などの消費者保護
(引用:e-GOV法令検索「電気通信事業法(昭和五十九年法律第八十六号)」)
一方で、登録・届出が不要な「電気通信事業者(法2条5号)」の具体例は、
- SNS
- 検索サービス
- オンラインでの情報提供サービス
- オンラインストレージ
- 電子掲示板
- オンラインのショッピングモール
などです。
なお、上記のサービスであっても、「電気通信回線設備の設置」しているかや「他社の通信を媒介しているか」によって、登録・届出を要する可能性があります。
上記、登録、届出の不要な電気通信事業者を改正法案では「第三号事業者」と呼びます。 改正前までの第三号事業者には、検閲の禁止(法3条)や通信の秘密の保護(法4条)などの義務が課されているだけでした。
本改正法案では、この「第三号事業者」でも一部の指定を受けた利用者の利益へ与える影響の大きい事業者は、届出の対象となりました。こちらは後に詳しく解説します。
2. 外部送信規律
改正法27条の12で、電気通信事業者、または第三号事業を営む「電気通信事業者」のうち、総務省令で定める事業者や個人に対して、外部送信規律(新たに利用者情報の送信に関する規律)を定めました。
ウェブサイトやアプリの利用者の情報が、広告プラットフォーム運営事業者などのウェブサイトやアプリ運営事業者以外の第三者に外部送信される場合、所定の事項の通知または公表などが求められます。
具体的には、外部送信される情報の内容・送信先に関する情報・利用目的などについての情報が記載されたページを自社サイト内で公表するといったことが求められます。
2-1. 外部送信規律の対象事業者
現代社会においては、多様な産業でデジタル化が進展しており、たとえば、チャット機能が実装された各種アプリやクラウド、IoTやオンラインサービスなどが、内容次第では部分的に改正電気通信事業法の適用対象となる可能性があります。
外部送信規律の対象は以下のようなサービスを提供する事業者です。
特に厄介なのが、「各種情報のオンライン提供(ニュースサイト等)」で、自己に関する情報発信(IR情報の発信など)は該当しないという条件はあるものの、対象範囲が広く、Webサイトを運営する多くの事業者が対象事業者に該当する可能性があります。
- 固定・携帯電話
- インターネット接続サービス
- 利用者間のメッセージ媒介サービス
- Web会議システム
- SNS/オンライン検索サービス
- オンラインショッピングモール
- オークションモール
- 各種情報のオンライン提供(ニュースサイト等)
- 経費精算・勤怠管理・電子契約・顧客管理・採用管理またはビジネスチャットのオンラインサービス
- 自動車メーカーによる渋滞情報配信サービス
2-2. 外部送信規律対象行為
外部送信規律の対象となる行為は、例えば、事業者が、その電気通信役務の「利用者」のパソコン、スマホ、IoTセンサーなどの端末機器に対し、その端末に記録されたデータを、事業者以外の第三者のサーバーに送信させることです。
そのため、ウェブやアプリからデータが送信される以下のようなツールをご利用の際は対象になる可能性があります。
- アクセス解析ツール
- 各種広告プラットフォームのリターゲティング広告やコンバージョン(CV)測定
- CDPなどの顧客情報分析ツール
- マーケティングオートメーション(MA)ツール など
2-3. 外部送信規律の具体的内容
外部送信規律対象行為を行う外部送信規律の対象事業者は、以下のいずれかを行う必要があります。
- 通知または公表
- 同意取得
- オプトアウト方法の公表及び本人の求めに応じた当該措置の実施
規制対応の難易度を踏まえると、「通知または公表」の対応をとることが現実的であるため、こちらについて詳細を説明します。以下の事項を通知または公表する必要があります。
- 外部送信される情報の項目
- 外部送信の送信先の氏名または名称
- 外部送信の送信先における情報の利用目的
また、通知または公表の方法も指定されており、
- 日本語を用いて、専門用語を避け、わかりやすい表現を用いること。
- 操作を行うことなく文字が適切な大きさで表示されるようにすること。
- その他、通知または公表の対象となる事項について、容易に到達し、及び確認できるようにすること。
3. 特定利用者情報
改正法では、新たに「特定利用者情報」が規定され、定められた電気通信事業者は、この特定利用者情報を適正に扱う義務が生じました(改正法27条の5〜27条の11)。
「特定利用者情報」とは、以下すべてに当てはまるものと定められています。(改正法27条の5第1号、2号)
- 通信の秘密に該当する情報
- 利用者が識別でき、かつ、総務省令で定める情報
しかし、この「特定利用者情報」について、すべての電気通信事業者に「適正取り扱いの義務」が生じるわけではありません。
情報の定義と対象事業者について、順に見ていきましょう。
3-1. 通信の秘密
「通信の秘密に該当する情報」とは、個別の通信内容以外にも、通信に関連する以下のような情報です。
- 個別の通信にかかる通信内容
- 個別の通信にかかる通信の日時、場所
- 利用者の氏名、住所、電話番号、個別識別符号、通信回数
上記の事項を知られることによって、通信の内容を推測できる情報・データすべてが含まれるとされています。この通信の秘密に該当する情報のみで特定の人物を識別できないとしても、特定利用者情報に該当するのです。
3-2. 利用者識別情報
利用者識別情報については、改正法27条の5第2号で「契約者や、その他これに準ずる者として総務省令で定める者に関する一定の情報のみが規制対象」と定められています。
- 電気通信事業者(第三号事業者も含む)との間で契約を締結した者
- IDなどで利用者登録を行った者
上記の利用者に関するデータベース化された情報のみが規制対象となることが想定されます。
一方で、契約締結や利用者登録なしにサービスの提供を受ける利用者の識別情報については、「通信の秘密」に該当しない限り、特定利用者情報の規制を受けないと想定されています。
3-3. 特定利用者情報を適正に取扱う義務
特定利用者情報を適正に取扱う義務は総務省令で定めるところにより、総務大臣から指定された、利用者の利益に及ぼす影響が大きいと判断される規模の大きな電気通信事業者にその義務が生じます。
【指定の対象となる事業者】
無料の電気通信役務の場合:利用者数が1,000万人以上である電気通信役務
有料の電気通信役務の場合:利用者数が500万人以上である電気通信役務
(参考:総務省「特定利用者情報を適正に取り扱うべき電気通信事業者の指定について」)
【特定利用者情報の取扱いに関する規律】
- 情報取扱規程(改正法27条の6)
特定利用者情報の取扱いに係る「情報取扱規程」を定め、届け出なければならない
- 情報取扱方針(改正法27条の8)
特定利用者情報の取扱いに係る「情報取扱方針」を定め、公表しなければならない
- 評価・反映(改正法27条の9)
毎事業年度、特定利用者情報の取扱状況の自己評価を行うとともに、その結果を「情報取扱規程」や「情報取扱方針」に反映しなければならない
- 情報統括管理者(改正法27条の10)
「特定利用者情報統括管理者」の選任をしなければならない
- 事故報告(改正法28条2号)
通信の秘密の漏えい及び特定利用者情報であって総務省令で定めるものの漏えい時には、その旨をその理由又は原因とともに、遅滞なく、総務大臣に報告しなければならない
4. 「検索情報電気通信役務」・「媒介相当電気通信役務」の創設
改正法では、「検索情報電気通信役務」と「媒介相当電気通信役務」という新たな概念が設けられています(改正法13条2項、16条2項、同条6項、164条1項3号ロおよびハ)。
これまで、第三号事業者に該当する事業者は、電気通信事業者の届出をする必要がありませんでした。しかし、本改正法施行後は、大規模なインターネット検索サービスやSNSを提供する事業者で、総務大臣に指定を受けた者は、届出などの手続きをしなければならなくなりました。
【指定の対象となりうるサービス】
- 検索情報電気通信役務...インターネット検索サービス
- 媒介相当電気通信役務...SNSなど他社の通信を媒介して行うサービス
なお、指定の対象となるのは、上記電気通信役務のうち、利用者の利益に及ぼす影響が大きいものとして、総務省令で定めるものとされており、
「検索情報電気通信役務」については以下が対象となります。
- 入力された検索情報に対応して当該検索情報が記録された全てのウェブページのドメイン名等を出力できるものを提供する電気通信役務
- 一般的なインターネット検索サービスが対象。レストラン、商品など特定分野のみの検索サービスは対象外。
- 利用者の数が1,000万人以上であるサービスを提供する者に電気通信事業法の規定を適用。
「媒介相当電気通信役務」については以下が対象となります。
- 主として不特定の利用者間の交流を実質的に媒介する電気通信役務
- SNS、登録制掲示板、動画共有プラットフォーム、ブログプラットフォーム等が対象。付随的なものや商取引に関する情報のみを取り扱う電気通信役務は対象外(例:ニュースサイトコメント機能等)。
- 利用者の数が1,000万人以上であるサービスを提供する者に電気通信事業法の規定を適用。
5. まとめ
デジタル社会が一層活発化する現代では、インターネットサービスを提供する通信事業者数は年々増加傾向にあります。電気通信事業法改正により、第三号事業者の立ち位置にも変化が見られ、今後も規制の強化が進むと考えられます。
電気通信役務を提供する事業者は、電気通信事業法について、改めて認知する必要があるでしょう。
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公開日:2023年1月20日
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