AIリスクマネジメントとは?安全なAI活用のための対策

セキュリティ 2025.08.26
AIリスクマネジメントとは?安全なAI活用のための対策

近年、ChatGPTなど生成AIの急速な普及により、企業の業務効率化やビジネスモデルの変革が進んでいます。その一方で、プライバシー侵害やセキュリティ上の脅威、法的責任など 新たなリスク も顕在化しています。生成AIの不正確な回答(いわゆる、ハルシネーション)によって企業に関する誤情報が広まり、風評被害(レピュテーションリスク)につながるケースも指摘されています。

こうした中、AIを安心・安全に活用するためにAIリスクマネジメントへの注目が一段と高まっています。

1. AIリスクマネジメントとは何か?

1-1 AIリスクマネジメントとは?

AIの導入・運用に伴って生じるさまざまなリスクを事前に評価・分析し、適切な対策を講じて被害の予防や軽減を図る一連のプロセスです。

例えば米国の標準化機関NIST(国立標準技術研究所、以下、NIST)は2023年1月、「AIリスクマネジメントフレームワーク(AI RMF)」を公表し、AIの設計・開発から導入・運用に至るライフサイクル全体で発生しうるリスクを整理し、継続的なリスク管理体制を構築するための国際的な指針を示しました。このようにAIリスクマネジメントは、AI活用におけるリスクとベネフィットのバランスをとりながら、企業がAIを「安心して使える状態」に保つことを目的としています。

(参照先:https://www.nist.gov/itl/ai-risk-management-framework)

1-2 AI活用リスク軽減への各国の取り組み

各国・各業界でもAIの安全な利用に向けた取り組みが進んでいます。欧州連合(EU)では包括的なAI規制法であるAI Actの整備が進められ、2024年に施行が開始されました。日本でも経済産業省によるAIガバナンスガイドラインの策定など、AIリスクへの対応策が議論・整備されています。こうした動向も踏まえ、企業は自社でのAI活用におけるリスク管理を早急に検討・実践する必要があります。

2. 企業が直面する5つの主要AI活用リスク

具体的に、企業がAI活用で直面しうる主なリスクには以下のようなものがあります。

2-1 プライバシー侵害

AIに個人データや機密情報を入力・処理することで、意図せず個人情報が漏えいしたりプライバシー権を侵害したりするリスクです。実際、生成AIの普及に伴い個人情報の流出や不適切な利用への懸念が高まっています。

2-2 セキュリティ上のリスク

AIシステムや生成AIの利用が新たなサイバーセキュリティリスクを生む可能性があります。例えば、AIの出力をフィルタせず業務システムに取り入れることで不正なコードやマルウェアを拡散させてしまう危険や、AIそのものがサイバー攻撃の対象になるリスクが考えられます。

2-3 法的リスク(著作権/知的財産権の侵害等)

生成AIが学習過程や出力で著作権で保護されたコンテンツを無断使用するケースや、AIの判断ミスにより事故・損害が発生した場合の法的責任の所在など、法律面でのリスクです。例えば、ChatGPTなどの出力をそのまま公開して第三者の著作物を含んでいた場合、著作権侵害に問われる可能性があります。また、AIの利用が業種によっては規制(医療機器としての承認など)に抵触するケースもあり注意が必要です。

2-4 倫理的リスク

AIの判断・出力が差別的な内容を含んだり、学習データの偏りによってバイアスのかかった結果を出力したりするリスクです。これは企業の倫理姿勢や社会的信用を損ねる可能性があり、放置すると従業員や顧客からの信頼を失いかねません。AIを利用する際には、公平性・透明性を確保し、人権や差別に関する規範を順守することが求められます。

2-5 信頼性・風評リスク

AIの回答が誤っていたり、架空の情報を生成した場合の正確性の問題です。社内意思決定にAIを用いる場合、誤った分析結果に基づいて判断してしまうリスクがあります。また、対外的にAIが誤情報を発信した場合、それがインターネット上で拡散し企業のブランドイメージに悪影響を与えるレピュテーションリスクにつながります。特に生成AIが自社について事実と異なる回答をしたりネガティブな言及を行ったりすると、ユーザーや顧客に誤解を与え信頼を損ねる恐れがあるため注意が必要です。

以上のように、AI活用には多岐にわたるリスクが存在します。これらを十分に認識した上で対策を講じることが、AI時代における企業経営のリスクマネジメント上、極めて重要です。

3.AIリスクマネジメントを実践するためには?


前述のリスクに対処するため、包括的なリスクマネジメントのフレームワークに沿って対策を講じることが推奨されます。NISTのAI RMFも提唱しているように、AIリスクマネジメントでは継続的かつ包括的なアプローチが重要です。

ここでは、その具体的な取り組みとして「リスクアセスメント」と「ガバナンス体制の構築」という二つの柱を紹介します。

3-1 リスクアセスメント(リスク評価)

まず、現在のAI利用状況や計画中のプロジェクトについて短期集中で診断を行い、潜在するリスクを洗い出します。例えば、データの取扱い(機密情報や個人情報が適切に管理・共有されているか)、モデルの公平性・透明性(出力にバイアスがないか、説明可能性が確保されているか)、生成AI利用時の著作権・コンプライアンス(AIの出力内容が法令やライセンスに反していないか)など、多角的な観点で評価を実施します。

評価後は、判明したリスクを低減するための具体的な対策を提言し、必要に応じてその実行支援まで行います。このようなスポット的リスク診断により、自社のAI活用上の課題を明確化し、早期に手当てすべきポイントを把握できます。

3-2 AIガバナンスと継続的な改善

次に、社内のAIガバナンス体制を構築し、継続的にリスク管理を行うことが重要です。具体的には、AI利用に関する社内ポリシーやルールを策定し、AI開発・導入プロジェクトごとに事前のリスク評価プロセスを組み込みます。さらに、定期的なリスク監査を実施して運用状況をチェックし、問題発見時には対策をアップデートします。

社内にAIに詳しい人材が不足している場合は、外部の専門家に顧問として参画してもらい、社内会議でのアドバイス提供など伴走支援を受けるのも有効です。このように体制を整えることで、常に最新のAI技術動向や法規制情報を踏まえつつ、内外環境の変化に対応した継続的なリスクマネジメントの改善が図れます。

4.AIO(AI Optimization)戦略

4-1 AIO(AI Optimization)戦略とは?

AIリスクへの対策と並行して、昨今新たに注目を集めているのがAIO(AI Optimization)と呼ばれる戦略です。AIOとは、生成AIにおいて自社情報が「どのように認識され、どう回答されているか」を可視化・評価し、その内容を戦略的に最適化するための取り組みのことです。いわば従来の検索エンジン最適化(SEO)に相当するものが、生成AI時代にはAIOすなわち回答エンジン最適化(Answer Engine Optimization)へとシフトしつつあるとも言われています。

4-2 なぜAIOが重要なのか

ユーザーが必要な情報を得る手段として、従来の検索エンジンだけでなくChatGPTのような対話型AIを利用するケースが増えているからです。もしユーザーがAIに「〇〇会社のサービスは信頼できますか?」と質問したときに、AIが誤った情報を答えたり自社について何も答えられなかったりすれば、ビジネス機会の損失やブランドイメージの低下につながります。逆に、AIが自社の正確な情報を引用・回答できれば、ブランドの可視性と信頼性が高まり、ひいては新たな顧客の獲得やビジネスチャンスにつながります。実際、AIO対策を講じることで生成AIの回答内に自社情報が適切に盛り込まれ、検索経由・AI経由の流入機会を確保するとともに、誤情報によるレピュテーションリスクの最小化が期待できるとされています。

5.まとめ

AIの持つ大きな可能性をビジネスに取り入れるためには、リスクを正しく理解し対策を講じた上で活用することが不可欠です。プライバシーや法令順守への配慮、バイアス除去や誤情報防止といった取り組みを通じて、これからの時代に企業はAIを「信頼できるパートナー」として活用していくことができるでしょう。

まずは、自社内で、現在利用しているAIや計画中のAIプロジェクトについて洗い出し、リスクの観点で棚卸しして、必要な社内ルールの整備から着手することをおすすめします。また、定期的に社内外の専門家を交えてAI利用状況をレビューし、最新の知見を取り入れながらガバナンス体制をアップデートしていくことも重要です。

自社だけで対応が難しい場合は、外部の専門サービスを活用することも考えられます。
例えば、Priv Tech株式会社の提供するAIリスクマネジメントサービスでは、米国NISTのフレームワークに準拠した包括的なリスク評価から継続的なAIガバナンス構築支援まで対応しています。このようなサービスを利用することで、社内に専門知見がなくとも最新の業界動向を踏まえた対策が可能です。

AIの利活用に関して不安や課題をお持ちの方は、ぜひ一度専門家に相談し、適切なリスクマネジメントによって安全かつ効果的なAI活用を実現してください。